ベートーヴェンの音の仕組み「月光」~「ソドミ」~

ベートーヴェンの音の仕組み「月光」~「ソドミ」~

本ブログ「音の考察」について

ベートーヴェンという作曲家が生まれてから250年が経ちました。

2世紀半という長い月日が流れた現在においても、ベートーヴェンの音楽は色あせることなく、多くの人々の心を打ち続けています。

彼の音楽は時代と国を超えて、我々の心に何かしらのメッセージを訴えかけ続けているのだと思います。

ベートーヴェンはこれらの音楽をどのように作り上げてきたのでしょうか。

本ブログ「音の考察」では、主にベートヴェンの楽曲を用いて、ベートーヴェンが感情表現のために用いた「音で構築した仕組み」を紐解いていきたいと思います。

作品 ピアノソナタ第14番 作品27-2「月光」/ベートーヴェン

1801年、ベートーヴェンが31歳の時に作曲された3楽章構成のこの作品は、ベートーヴェンの楽曲の中でも最も有名な作品の一つです。

今回から2回に分けてこの「月光」を取り上げ、ベートーヴェンが自分の想いをこの曲に込めるために、どのような作曲のテクニックを使ったのか、紹介していきたいと思います。

まずはこの動画をご覧ください。

「月光」第1楽章冒頭の有名なフレーズです。

まるで暗い闇に沈み込んでしまい、そこから中々抜け出すことができない、そんな暗く重たい雰囲気が表現されているようです。

この重苦しい雰囲気を生み出している秘密とは、一体何なのでしょうか。

今回の鍵(キー)は「ソドミ」

第1楽章の「ソドミ」

月光第1楽章の冒頭では、「ソドミ」が繰り返されています。

この繰り返しの数は、楽章全体でなんと272回(ソドミと同じ特徴を持つ、音の組み合わせが異なるものを含む)。この曲の実に97%がこの「ソドミ」で構成されていると言えるのです。

では、この「ソドミ」とは一体どんな機能を持っているのでしょうか。

「ソドミ」の特徴は、3つの異なる音が上行している、ということです。ただ上がるだけ、一方向です。

そして、この「ソドミ」の後に来るのは、また同じ音型の「ソドミ」。上がって、元に戻り、また上がる。それを繰り返しているのです。

この表現の繰り返しによって、同じ場所を行ったり来たりするような錯覚を起こします。

さらに、この「ソドミ」の音ですが、暗い雰囲気を漂わせる響きを持っています。

暗い響きを持つ「ソドミ」が行ったり来たり繰り返される、まるで暗闇をループしているように感じ、それが、暗い闇に沈み込んでしまいそこから中々抜け出すことができない、そんな感覚につながっているのだと思います。

第1楽章では、この「ソドミ」と共通する特徴を持った音型が、音の組み合わせを変えながら、時に方向転換したりしながら、曲の始めから終わりまで常に登場します。

第3楽章でも出てくる「ソドミ」

実はこの「ソドミ」、第3楽章でも出てきます。

第3楽章冒頭(右手)の動画をご覧ください。

第1楽章と比較してどうでしょうか?全く違った印象を受けると思います。

ベートヴェン自身が、人生の暗闇に対し、苦難の状況に悩み続ける自分に対し、強い怒りの感情すら覚える。そうした強い怒りの感情をピアノにぶつけているかのような、エネルギーに満ちた表現になっていると思います。

この性格を作り出している秘密もまた、「ソドミ」なのです。

第3楽章の「ソドミ」

第1楽章では、上がって、元に戻り、また上がる、を繰り返していた「ソドミ」ですが、第3楽章では「ソドミ」を繰り返し使いながらも、低音から高音へと一気に駆け上がるように構成されています。そして最後は「ソドミ」を同時に2回叩くように鳴らします。

同じ音型を使いつつも、単純に繰り返すのではなく、その繰り返しを打ち破るかのように、高音に向かって突き上がっていく。そして、その高まった感情を強く打ち叩く。まるで苦難に対する怒りをぶつけるかのように。

第3楽章では、この低音から高音へ駆け上がる「ソドミ」の音型(音の組み合わせが異なるものも含む)が20回も出てきます。

その執拗な繰り返しが、ベートーヴェンの、人生の暗闇に対する、そして苦難の状況に悩み続ける自分に対する怒り、のように聴こえるのではないでしょうか。

ベートーヴェンは同じ音型で全く異なる感情を表現していた

第1楽章と第3楽章では曲の性格は全く違いますが、元の素材は全く一緒だということがご理解いただけたのではないでしょうか。

ベートーヴェンはこのように、同じ音型を多様に変化させて、様々な感情表現に利用していたのです。

この「ソドミ」の音型の特徴を、音楽用語を使って説明すると「分散和音」と言います。和音(高さの異なる複数の音を同時に響かせる)を分散して演奏する奏法のことです。

このピアノソナタ第14番「月光」の特徴を音楽用語を使って言い換えると、「連続する分散和音を活用し設計された、2つの異なる表現」と言うことができます。

さて、秘密が一つ明かされたところで、ぜひ全体を聴いてみてください。今回の鍵(キー)を至るところで見つけることができるかもしれません。

全体の映像:第1楽章

全体の映像:第3楽章

ピアチャームの「音の考察」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回は、月光におけるもう一つのキーをご紹介します。


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